ニッチでごめんね

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能とオペラとダンスのミックスカルチャー・細川俊夫『松風』がひたすら前衛的でした

こんにちは、DEKAEです。

ちょっと気になっていながら結局行かずじまいだった現代オペラ『松風』をテレビで観ました。

 

オペラ松風(細川俊夫 作曲)

新国立劇場の2017/18シーズンのラインナップに、大変興味深いオペラ作品がありました。

それが細川俊夫作曲の『松風』(2011年)。

作曲家の三曲目のオペラ作品で、全一幕5場です。台本はドイツ語。

能楽『松風』をもとに曲と台本が書かれ、ダンサー・振付師のサシャ・ヴァルツが演出・振付を施しました。

これが"コレオグラフィック・オペラ"として世界各地で絶賛されたとの前評判。

かなり宣伝に力を入れていて、イケてる予告映像も制作されていました。


細川俊夫&サシャ・ヴァルツ「松風」予告映像 Matsukaze -HOSOKAWA Toshio/Sasha WALTZ

3月にNHKの『クラシック音楽館』で放映されていたのを実家で録画してあったので、帰省した際に観ることができました。

 

オペラ『松風』あらすじ

序奏

幕は始めから開いたままになっています。

真っ暗な舞台が少しずつ、少しずつ明るくなっていき、舞台上で人がうごめいているのがかすかに認められます。

オーケストラは静かに潮風の音を奏でるのみ。

やがて舞台が明るくなると、ダンサー全員(?)で一本の松の木を表現。EXOの『Wolf』の冒頭みたいなやつです。

皆さんどういう身体能力なんすか?っていう体のひん曲がり方。

第一場<海>

旅の僧が須磨の浜にたどり着き、一本の松に記された在原行平の歌の謂れを尋ねます。

松風・村雨という名の姉妹と在原行平の悲恋話を聞いた僧は読経し、松を弔います。

風のイメージなのか…ダンサーがちょくちょく僧にまとわりついていて、歌うの大変そう。

第二場<汐>

松風と村雨の姉妹の登場。

蜘蛛の巣のようにひもが張り巡らされた圧巻の舞台セット。

ワイヤーで吊られた姉妹がひもをつたって天から降りてきます。

ところどころポーズを決めながら歌い続けています。めっちゃシュール…

こんなとんでもない体勢でも抜群の声量。

第三場<暮>

僧は浜辺にあった小屋の戸をたたき、住人の姉妹に一夜の宿を求めます。

はじめは断るものの、相手が僧と知った姉妹は行平との悲恋を打ち明け、魂の平安を願ってくれと懇願。

僧は彼女たちが松風と村雨の霊であることを悟ります。

姉妹の訴えの中で「行平」という歌詞が何度も登場し、そのつど えらくリリカルな日本語訳が付けられていましたけど…

原語のドイツ語圏の人々は「ユキィィィヒラァァァァァ」という歌詞を聞いただけで、こんな複雑な心情を想像できたんじゃろうか…

第四場<舞>

松の木に行平の姿を見出した姉妹が本性を露わにして舞い狂います。

ダンサーたちに抱えられ、振り回されながら歌う姉妹。歌というか、ほぼ悲鳴?

振り回されても抜群の声量。

その後ろで袴姿・上半身裸の「何か」が四股立ち(しこだち)のまま、どったん・がさがさと動き回っています。

ジェイソンみたいな覆面してるし、こわい…。

第五場<暁>

僧が目を覚ますと そこには小屋も姉妹もなく、ただ海を渡る風が残るだけ。

その横では象徴的な女性がすり足でステージ前方に歩み寄っていきます。

モロ能ですね。

女性が歩く中で音楽と照明が徐々に消えていき、幕。

全く関係ない話ですが、私大学時代能の実技授業を取っていてですね。すり足ってものすっごいしんどいんですよ。

 

オペラ『松風』の感想

なかなか珍しいものを見ることができました。

世界観がしっかりしていて飽きることがないですね、時間も90分くらいで。

次は何が起きるのか?というハラハラ感もあり。

見せ場となるアリアは無いですが、能における『破ノ舞』を置くことでクライマックスがはっきり立ち現れてきます。

構成やアバンギャルド性がサロメっぽいといえば、そうともいえるかも。

それから、キャスト一覧を見る限り声域の指定が特にないのかな?女性陣はかなりのハイトーンを出してましたが。 

今後のオペラの展望として、オーセンティックな演出に加えてこういったモダンアート的なアプローチも増えていくのでしょう。

以前に見たモーツァルト『コジ・ファン・トゥッテ』もだいぶポップに料理されていましたし。

この作品はヨーロッパの複数劇場からの委嘱作品だったそうですが…ヨーロッパの人ってこういうの好きなのかね。

なお作曲家の話によると、この姉妹は一人の女性の二面性を表しているため、二人の女が一人の男を愛するという矛盾にはならないとのこと。

この「能」の発想が西洋でも面白がられたのかもしれません。普通のヨーロッパ・オペラなら間違いなく三角関係の話になっちゃいますもんね…。

 

おわりに

しかしまぁ、新たな芸術にお金をかけられるヨーロッパの文化的な成熟度合はさすがというか、やはり羨ましいですね。

それにしても、今時のオペラ歌手・合唱団は踊りまで踊らにゃならんのかいというのが、一番の印象なのでした。

 


おしまい

 

NYタイムズに以前のプロダクション公演時の写真が載ってました。松がドラゴンみたい。

www.nytimes.com