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セロ・リコ ~ 負の世界遺産で命がけの銀山ツアー【ボリビア多民族国・ポトシ】

¡Hola! DEKAEです。

南米、ボリビア多民族国。

いくつものユネスコ世界遺産を擁する魅力的な国ですが、その中で私がどうしても行きたかった場所があります。

それが「人を喰う山」として恐れられた銀山の街、ポトシです。

※以下、2019年4月の記録です

世界文化遺産 ポトシ市街

ポトシはボリビア南部に位置する標高約4,000メートルの都市で、人が住む都市としては世界最高地点と言われています。

なぜそのような高地に都市が形成されたのでしょうか。

街の奥に鎮座する山、これこそがポトシに人を集めたセロ・リコ(Cerro Rico)。スペイン語で「富の山」を意味する銀山です。

ボリビアは16世紀から19世紀初頭までスペインの統治下におかれました。植民地時代に鉱山開発が進められ、セロ・リコもスペイン人によって発見されます。

やがてボリビアの先住民族ケチュア族を集めて奴隷労働を強いるようになり、祖国に巨万の富をもたらしました。

1987年にはセロ・リコを含めたポトシ市街がユネスコ世界文化遺産に登録。

公式ではないものの、苛烈を極めた奴隷労働を象徴するものとして「負の世界遺産」とも呼ばれています。

※他の有名な負の遺産にアウシュビッツ強制収容所、原爆ドームなど。

セロ・リコの鉱物資源はほぼ枯渇しているとも言われており、2014年には危機遺産として追加登録されました。

とは言え、ここでは今でも多くの鉱夫が手作業による採掘を続けています。

何と、そんな彼らの作業風景を見学するツアーがこの街の名物!

DEKAEがこの街にやってきた目的も、この鉱山ツアーへの参加だったのです。

セロ・リコ Cerro Rico

鉱山ツアーへの参加

ツアーへの申込みは、滞在先のホテルや街中にある代理店で可能ですよ。

KOALA TOURSというツアー会社に出向きました。

一般的に鉱山ツアーは午前と午後の二回開催。午前の方が働いている人が多く より実態に即した状況を見られるのだとか。

午前の回は8:30~9:00頃の出発ですが、ツアー会社の多くは8:00頃に開店するため当日予約でも大丈夫です。

ここで150ボリビアーノス(以下Bs.、1Bs.は約16円)を支払い、ガイドのオスカルさんに連れられて他の参加者の集合場所まで徒歩で移動しました。

ポトシの街は全体が急峻な坂でできており、しかも4,000メートルの高度。少し歩いただけで息切れがします…

着替え

ツアー参加者みんなでバンに乗り込み、まずはバックヤードで作業着にチェンジ。

覇気がない

基本的な装備は全て含まれるものの中まで汚れる可能性が高く、最悪捨ててもいいぐらいの服で行くことをおすすめします。

また、鉱山内はかなり埃っぽいため口にあてるバンダナが必須。私は持参しましたが、ここで購入することもできました(10Bs.)。

柄が二種類あり、しかも可愛かったので記念に買っておけば良かったと後悔…

英語かスペイン語か

続いて希望の言語を尋ねられます。ツアーには英語ガイドかスペイン語ガイドが付き、内容は同じとのこと。

私以外は全員英語を選択し、一人だけスペイン語の方に挙手。というわけで、ここからはオスカルさんを独り占めです。

ゆっくり話してくれたので安全面・理解度ともに全く問題ありませんでした。

スペイン語学習者の方はスペ語チョイスでも良い経験になると思います、もしもの時は英語も通じますし。

他の参加者がスペ語ネイティブばかりだと辛いかもしれませんがw

差し入れ購入

まずは鉱山についての簡単な説明を受けます。

現在のセロ・リコは荘園制のようなシステムで運用されているようでした。

つまり、ある者が特定の鉱区を購入して「ボス」となる。一般鉱夫はそのボスに幾ばくかの手数料を支払って、その鉱区に立ち入る権利を得る―という仕組みのようです。

うろ覚えですが現在18,000人が従事していると言っていた気が…

それから、小さな商店で鉱夫への差し入れを購入します。

アルコール飲料と小さなダイナマイトのセットで25Bs.くらい。恐らくこれが最少額で、希望すれば追加で購入できるようです。

鉱山は奥深くまで入り込むと酸素が薄くなります。アルコールは気付け薬の役割を担うため、90度超のかなり強烈なシロモノ。

…と、おもむろにオスカルさんがダイナマイトを床に落としました。

思わず二歩ぐらい後ずさりした私を見て笑いながら、「こうやっても爆発しない」と。それから正しい使い方を伝授してくれました。笑

コカの葉(5Bs.)。これを噛むと空腹を紛らすことができると言います。

ちなみにコカの葉を所持したままアメリカなどに入国すると、ワンちゃんに吠えられてお縄です。うっかり衣服につけて帰らないようご注意ください。

※コカ入りのチョコレートやコカ茶のティーバックもダメ。

「人を喰う山」の中へ

入口

ポトシ市街の標高は海抜4,000メートル。しかし銀山の入り口に至るまで、車はさらに山道を登っていきます。

何と坑道入口の標高は海抜4,600メートル!

ここが入口です。

おどろおどろしいチューブは空気を坑道内に送るためのもの。

線路上では鉱物を運ぶためのトロッコが行き交っています。

中に入るとまず、オスカルさんがこれを指さして言いました。

「これはトロッコにぶつかった旅行者の血の跡だ。くれぐれも気を付けるように」

あははと笑っていると、「冗談じゃない。なぁ、これは血だよな?」と通りがかりの鉱夫に同意を求めています。

鉱夫のおじさんは「そうだそうだ」と言って笑いながら去って行きましたw

まぁ確かに、2トン分の鉱物を乗せて猛スピードで走るトロッコにぶつかりたくはないかな…。

私 高所・閉所・暗所が苦手なのですが(なぜここに来た)、坑道内はパニックになるほどの狭さではなかったです。

屈まないと通れない所もありますが、ほふく前進で進むとかいうことはありません。何度か頭をぶつけましたけど…

また、ヘッドライトが視界全体を照らすほどだったので暗さは問題なし。

ただし、ひっきりなしに走るトロッコを避けて壁に寄ったり、トロッコの列が途切れる間に走って移動したり…マリオもびっくりのアドベンチャー。

体力に全く自信のない私でも大丈夫でしたが、それなりの覚悟は必要です。

20歳の青年

最初に出会ったのは高校卒業後すぐにセロ・リコで働き始め、2年ほど従事してきたという20歳の青年。

少しお話して、事前に購入したアルコール飲料を渡します。

この後も差し入れを渡すタイミングはオスカルさんが指示してくれました。オスカルさん自身もここで20年以上働いていたとのことで、鉱夫たちとは深い関係にあるようです。

…で、ついでに私も作業を手伝えと言われ、貴重な経験をさせて頂きましたw

ポトシの街を歩いていると小中学生の多さに驚くのですが、彼らも やがてここで働くことになるのでしょうか―?

エル・ティオ

続いてこの山の守り神にご挨拶を。

『エル・ティオ』です。

ボリビア先住民族のケチュア族が、悪魔として恐れてきた存在。突然目の前に現れると思わず息を飲むほど、ゾッとする佇まいです。

鉱夫たちは仕事の前に彼に煙草や酒を捧げ、成果と身の安全を祈ります。終業後は感謝を捧げてから帰路につくのだそう。

ティオの像はおちょぼ口になっていて、煙草が差さっています。

ちなみに『エル・ティオ』(el tio)はスペイン語で「おじさん」という意味。

しかしこのティオは、Dios(神)というスペイン語をケチュア族がなまって呼んだ名なのだとか。

ケチュアにおけるティオは悪魔でしたが、二つの文化が混ざる過程で守り神の性質を帯びていったようです。

このように、鉱山内ではスペインとケチュアのカルチャーが溶け合っています。

ヘスス(タタ)

セロ・リコには四の神が存在します。

ティオ、パチャママ(母なる大地にしてティオの妻)、キリスト、あと何かもう一つ(忘れた)。

坑道内にヘスス(イエスのスペイン語読み)も祀られています。

御本体は飾りで覆われ異様な雰囲気…

ただしセロ・リコ内ではヘススではなく、ケチュア語で「セロ・リコの父」を意味する名で呼ばれます。

『タタ・何とか』と言ってましたが失念しました…

さらに奥へ

ある地点で急に空気のにおいが変わりました。酸素もいっそう薄くなり、いよいよしんどいゾーンに突入です。

少しばかり不安を覚えながら進んでいくと、現れたのがこちらの道。

写真だとまっすぐの道に見えますが、下を向いて撮っています。つまり穴。

この穴をボルダリング並みの小さな出っ張りに手足をひっかけながら降りていきます(ほとんど滑落)。

下部の見学後は、この穴を登って戻りました。この時にガイドのオスカルさんから、

「カメラ貸して。俺が先に上がって、登ってくるところを撮ってやるよ。帰ってから友だちに自慢できるよ」

との申し出が。ナイスアイディア!とカメラを渡します。

「ちゃんと撮れてますか~?」と聞くと「撮れてる撮れてる!」と言うので、後から見てみたら

案の定感がすごい。

橋の下

こんな心もとない橋を渡らなければならないところも。フラっと穴に落ちる旅行者とかいないのでしょうかね…

渡って安心していると、さらに衝撃的な展開が待ち受けていました。

「ここを降りるよ」

えっ。

なんと、この穴にかかっているはしごをつたって深部に進むというのです。ここでも、深部を見学した後ははしごを登ってもとの場所に戻りました。

このはしご、歯抜けになっている箇所もあり危険です。戻る際に足を踏み外して壁に激突。ツアー中最も死ぬかと思った瞬間で、後から見たらあざができてました…

戻って休んでいるところに英語ツアー組もやってきました。

「ここを降りるよ」

What!?

私の時と全く同じ空気が流れますw

グループに一人いた女性は「私は無理だと思うからここに残るわ」と言い、男性陣だけが降りてゆきました。

セロ・リコと日本人の働き方

続いて会ったのは、大きな石の塊から金属部分を採掘している鉱夫。

この方にはコカを差し入れ。彼らはコカの葉だけで5時間ほど休みなく働き続けるとのことです。

過酷ですよね…。しかし、オスカルさんに日本での働き方を尋ねられて答えると、二人して「こっちの方がいいや」と言ってましたw

「君もここで働いてみない?」とスカウトされましたが、得意の曖昧なスマイルで回避♪

ちなみに私がここを訪れたのは4月30日、メーデー前日でした。

「日本人はみんな明日休むの?」と聞かれたので、私たちにとって5月1日はあまり重要でないと回答。

そうすると「ここも同じだ。でも明日はみんな酒を飲むよ」とのことでした。

荘園の主

このゲートは、鉱山内の「領地」を示すものです。

ゲートの先は「ボス」に手数料を払っている鉱夫しか立ち入ることが許されていませんが、ツアー客は入っていいのだそうですw

奥からかすかにラテン音楽が―?

近づいてみると、そこにいたのが不機嫌そうな顔の「ボス」でした。

オスカルさん「何でこんなロマンチックな曲かけてるんだよ!」と爆笑。ボスはむすっとしたままですw

ボスは鉱夫たちが採掘した鉱物を選別中。品質によって土のう一袋あたりの金額が全く異なってくるため重要な作業です。

土のう袋を持ってみろと言われましたが、私の力ではびくともしません。

ボスにダイナマイトを渡して別れを告げた後も、あちこちを登ったり下りたりしました。

汗びっしょり、息も絶え絶え。

「ちょ、ちょっと休ませて…」と言って座り込んでしまいました。

「想像してみな。仕事が終わったらあの土のう袋を背負ってここを登るんだよ」

もう何の言葉も見つかりません…

おわりに

文字通り命がけのセロ・リコのツアー。とにかく無事に出てこられて良かった…

働く鉱夫たちの様子にただただ圧倒され、聞きたかった疑問の数々は飲み込んでしまいました。

しかし彼らは皆ユーモアをもって働いていて、絶望感とか悲惨さは感じなかったというのが一旅行者としての率直な感想です。

帰りの車中でちょうど鉱山に関するニュースが流れていました。

オスカルさん「聞こえた?今年1月から4月までの死者数は10名だったって。少ないだろ?」

私が「う、うーん、そうなんですかね…」と困惑していると、横で聞いていた運転手さん大笑い。

山の男は豪快なのでした…

無事地上に出られたら腹ごしらえを

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おしまい